身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「……あっ。夕食はいりますか?」
「いつもありがとう。いただきます」

 そう言ってポケットからスマホやキーを出し、上着を脱いだ成さんがなにか言いかける。

「そうだ。今日――」

 瞬間、今しがたキャビネットに置いた彼のスマホが音を鳴らした。
 反射的にディスプレイへ目を向けると、表示は数字のみ。どうやら登録外からの着信みたい。

「はい、鷹藤です」

 成さんが応答するのを見て、私は仕事の電話を邪魔しないよう、気配を消して成さんが脱いだ上着に手を伸ばした。

「ああ、夕花さんでしたか。今日はありがとうございました」

 上着に触れるか否かのときに聞こえた名前に驚愕する。

 夕花さん? 今日……って。

 電話をしている成さんを怖々見る。

 成さんの様子は至って普通。
 特になにかあったわけではないってわかる。

 でも、ふたりが会ったという事実を知り、衝撃を拭えない。

 急な仕事って夕花さんだったの……?

 混乱している間に、どうやら通話が終わりそうな雰囲気だ。

「はい。いえ、お気になさらず。わざわざお電話ありがとうございました」

 成さんが電話切る直前、私は慌てて視線を逸らす。
 私は成さんからなにか言われる前に、自ら笑顔を作って問いかけた。

「今の電話……夕花さんですか?」
「うん。さっき言いかけたけど、さっきまで会っていたのがマチラの社長と副社長で。そこに夕花さんも来たんだ。夕花さんは昨日ゆっくり挨拶できなかったからって、わざわざ来てくれたみたいで」

 ふたりきりじゃないと知り、ほっとするのも束の間、彼女が有言実行で早速成さんに接触してきた事実に動揺する。

 しかも、連絡先まで……。
< 123 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop