身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「……もちろん動揺はしましたよ。だけど怒ることはないかも」
「どうして? だって鷹藤さんは時雨さんの婚約者なんでしょう? 普通なら、手出しするな!ってなるでしょ」

 剛士さんは興味津々といったように、私から片時も視線を外さない。

 そのまっすぐな目がどうも居心地が悪くて、私は目線を落として泳がせて答えた。

「いえ……。それは私が言っても意味がないというか……」

 成さんの行動は私には制限できないし、もっと言えば気持ちだって拘束はできないから……。

「それって、鷹藤さんとはお見合いだから淡白なんですかね?」
「えっ。ち、違いますよ。ただ、結婚しているならまだしも、現状は私になんの拘束力もないですし。……彼は彼で選択権がありますから」

 しどろもどろになりながら否定する。
 すると、剛士さんがさらに顔を近付けて囁いた。

「ふうん。夕花もクールですが、時雨さんはまた別のタイプのクールさを持ち合わせているんですね」

 そう言った彼の表情は、爽やかなものではなくなにか秘めたものに感じてしまってギクリとする。

 どうして簡単に『気さくでいい人』なんて思い込んだの。

 よくよく考えたら、この若さで本部長を任されているほどの人。ただのいい人なわけがない。
 利発で相手に与える印象くらい計算できるはず。

 途端に私は彼を警戒し、さりげなく距離を取ってぽつりと返した。

「ク、クールとか私にはよくわかりません……」

 ただ私は……常に冷静でいたくて。
 この一線を越えれてしまえば、成さんに対しての気持ちが取り返しのつかないことになりそうで怖い。

 奇しくも剛士さんの言葉で、夕花さんのことで一歩引いた状態の自分は単なるネガティブ思考によるものだったのだ、と浮き彫りにされる。

 居心地が悪い。こんな見苦しい感情に気づきたくなかった。

 絶対に、誰にも知られないようにしなきゃ――。
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