身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「感情的にならない女性っていいですね。常に物事を俯瞰で見られる人は、一緒にいて尊敬できそうだ」
「私、そんなふうに言ってもらえるような人間じゃないですから!」

 醜い部分をまったく逆に捉えられて、堪らず声を上げた。直後、ハッとして取り繕う。

「や……私本当に……褒められるほどのものじゃ」
「夕花は自分を中心に考えるタイプです。それがいいか悪いかは置いておきますが、時雨さんは対称的だ。相手を中心に考えるタイプ」

 次々と並べられる言葉に圧倒されて、なにも返せなくなる。

 彼からは敵意こそ感じられないものの、私の本心を探られているみたいでどうにも落ち着かない。
 恐る恐る剛士さんと目を合わせたとき、突風が吹くのと同時に言われる。

「そうだ。時雨さん。もし夕花がうまくいってしまったときは、次は僕とお見合いしませんか?」
「は……?」

 風の音が止み、一瞬時が止まった錯覚に陥った。
 風で飛ばされないよう、彼の上着を咄嗟に掴んだ手は力が入ったまま。

 私の瞳には、にっこりと満面の笑みを浮かべる剛士さんが映っている。
 私は戸惑いを隠せず、数秒間固まっていた。

「あ、冗談言って私を困らせたんですか? 紀成さんって面白い方ですね」

 ようやく声を絞り出して無理やり笑った私に、彼は真剣な面持ちで即答する。

「いいえ。冗談じゃないですよ」

 彼の表情からそれは伝わってくる。
 剛士さんはパッと両手を軽く上げて、微苦笑を見せた。

「あ。無理に引き離すつもりはありませんよ。だけど、もしも鷹藤さんと縁がなかったら――僕にもチャンスがほしいかな」

 そして、最後はとても精悍な目で言われた。

 成さんといい剛士さんといい、ストレートな言葉で好意を寄せてくる。
 私はどう躱していいかわからないから、あたふたするだけ。

 この状況に堪えきれなくなって、すっくと立ち上がる。
 肩にかけていた上着を脱いで、剛士さんへ差し出した。

「いえ。お見合いはもうしませんから。これ、ありがとうございました。紀成さんが風邪をひいてはいけませんし、私もう戻りますね。失礼します」

 一方的に挨拶をし、そそくさと出口へ足を向ける。
 刹那、腕を掴まれ、思わず振り返ってしまった。

「時雨さん。また」

 剛士さんはニコッと笑ってそうとだけ言うと、手を離した。
 私は軽く目を伏せ、逃げるようにして屋上を後にした。
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