身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 反射で振り返ると、さっきまで笑っていた剛士さんが焦りを滲ませた顔つきをしていた。
 あきらかに雰囲気が一変していて、妙な緊張感が走る。

 私が困惑していると、彼は不測の事態に困ったと言わんばかりに頭を抱え、私を一瞥する。

「あー。どうしよう……。僕、今初めて夕花の気持ちを少しだけ理解した」

 夕花さんの気持ち……って。

 不穏な空気に心がざわつく。

 早く彼から離れたほうがいいと感じていても、肩に手を置かれているし、まして手を振り払って逃げるなんて真似はできない。

 為す術なく固まっていたら、剛士さんが射るような視線を向け続けてくる。

「彼とは家同士の縁ってだけなら、俺にしない?」

 驚きのあまり、声も出ない。
 彼の熱い視線からも逃れられず、大きくさせた瞳に真剣な面持ちの彼を映し出すだけ。

 胸が早鐘を打つ中、ポン、とエレベーター到着の音が耳に届く。

「すみません。エレベーターがきたので……」

 私は術から解けたみたいに身体が動くようになって、そそくさとエレベーターに乗り込んだ。
 上昇するエレベーター内で、深く長い息を吐く。

 聞かなかったふりをして逃げてきちゃった。……だって、急に変貌されたら対応できないよ。

 この間は冗談だって思えたけれど、さっきのは――。

 剛士さんの眼差しが目に焼き付いてる。
 心臓がドクドクうるさい。
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