身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「ごめん……なさい」

 私のひとことに、成さんは悲しそうに瞳を揺らした。
 私はそんな彼の顔を両手で包み込む。

「私、どうしても腑に落ちなくて……。いつか成さんが私から離れても平気でいるために、一歩踏み込むのを躊躇ってたんです」
「え? どういう……」
「成さんみたいな素敵な人が私を選んでくれたことに自信がなくて」

 戸惑う成さんに、私は涙目で笑みを浮かべた。

「でももうやめます。成さんの気持ちは関係ない。私、あなたが好きです」

 もう無駄に理由を考えたりするのをやめる。

 理屈じゃない感情ってある。
 頭で考えるんじゃなくて、心が動く――そんな衝動的な感情が。

「私と結婚してくれますか……?」

 だって今、すごくドキドキしてる。絶対この気持ちが正解だもの。

「んっ」

 成さんは驚いた表情から一変し、私の左手を握って薬指にキスをする。

 くすぐったくて一瞬目を瞑り、ゆっくり視界を広げていったら幸福そうに笑みを零している成さんが瞳に映し出された。

「ひどいな」
「え……」
「俺の気持ち、関係ないの?」
「そん……っ」

 熱いキスに思考が蕩けていく。

 私の唇や頬、瞼や耳、指……身体の全部に触れる彼からは、言葉では言い尽くせないくらいの想いを感じる。
 肌を滑り、髪を梳かれ、唇を濡らすすべての行為が気持ちいい。

 恍惚として薄っすら瞼を開いて彼を見つめる。

「好きだよ。いつもこうやって……めちゃくちゃにしたくなるほど――」

 本当にうれしそうに口の端を上げる成さんは、飽きもせず口づけを交わす。
 そっと離れていった後、彼はまなじりを柔らかく下げた。

「ずっと一緒にいよう、梓」
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