身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「わかりました。……もしもし。お電話代わりました。時雨です」
《時雨さん? 夕花です》

 夕花さんは電話でも素敵な声で、やっぱり魅力のある女性だなと思った。

「はい。私になにか?」
《その声から察するに、私のこと怒ってるのかしら》
「そういうわけじゃないですけれど……」

 怒る……っていうのもちょっと違う気がする。
 うまく表現できない感情を抱いていると、夕花さんが言った。

《今日、少し時間あります? 最後に会ってお話したいと思って》

 普通では考えられない言動に、度肝を抜かれた。さすがにすぐには返答できない。

 徐々に冷静さを取り戻していくうち、今彼女が口にした〝最後に〟というワードに引っかかる。

 きっと、ひどいことを言われはしない。

 直感でそう思った私は、「わかりました」と彼女の誘いを受けた。
 通話を終えた私は、スマホを成さんへ返す。

「彼女、なんだって?」
「すみません、成さん。私これからちょっと出かけてきます」
「え……? もしかして、呼び出されたの?」

 成さんは目を白黒させる。

「最後って言ってたんです。だから……」
『公正に勝負を』――。あれは彼女の一方的な約束みたいなものだった。それでも、私は暗に受け入れたかたちになってしまっていたと思う。

 正面切って勝負を持ちかけた彼女だから、この期に及んでなにか企んでいるなどとは考えにくい。

「行ったらダメでしょうか?」

 成さんの顔色を窺ったら、彼は眉間に皺を作り、頭を抱えた。

「はあ。君は本当にお人よしだな……。仕方ないね。俺はそういうところを含めて君を好きになったんだから」

 そして、最後は苦笑いを浮かべて私の気持ちを汲んでくれた。

「ありがとうございます」
「その代わり、近くで待ってるよ。いい?」

 それから、成さんの提案で、夕花さんとの待ち合わせまで、ふたりでウインドウショッピングをすることにした。
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