身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 成さんと街をぶらりとして、時刻は午後三時。

 夕花さんに指定されたのは銀座のカフェ。

 ヨーロッパに本店がある紅茶専門のカフェで、一階は茶葉を扱うショップになっていて、二階と三階が喫茶室となっていた。

 名前は聞いたことのあるカフェだったけれど、利用するのは初めて。

 私は夕花さんに言われた通り、スタッフに『紀成』と名前を伝えると、三階の一番見晴らしのいい席へ案内された。そこにはまだ夕花さんの姿はない。

 私は椅子に座って、連れが来るまでオーダーを待ってほしいと伝え、外を眺めた。

 成さんは近くにある別のカフェに入って待っている。

 数分待っていると、階段の登り口に夕花さんがやってきたのに気が付いた。
 私は反射的に席を立つ。

「お待たせしたかしら。ごめんなさい」
「いいえ。私が早く着いてしまっただけですから」

 夕花さんは電話でもそうだったけれど、驚くほど普通。
 彼女が椅子に座るのを見て、私も腰を落ち着けた。

「いつものをお願いできます? 時雨さんは?」

 やってきたスタッフに夕花さんは慣れた様子でオーダーをする。
 私はメニューを開くも、種類が多すぎて戸惑った。

「あ……メニューがとても豊富なんですね。決めきれないかも……」
「ここのスタッフは好みに合わせたものを選んでくださるから、そうしていただいたら?」
「え? そうなんですか。じゃあお願いしてもいいでしょうか?」

 夕花さんの助言でスタッフへアドバイスを仰ぐ。すると、フレーバーの有無や甘めかさっぱりめかなどを質問され、私に適したものを選んでくれた。

 ふたりきりになって夕花さんと向かい合う。
 私は内心落ち着かなくて、そわそわとしていた。

 そのうち、紅茶がふたつ運ばれてきて、密かにほっとする。さっきまで話題も浮かばなければ手持ちぶさたで困っていたから、飲み物がきただけでもありがたかった。

 目の前に置かれたカップをそっと手に取り、口元へ持ってくる。ほんのりとした苺の香りに幾分か気持ちが和らいだ。

 熱い紅茶をゆっくり口に入れていたら、夕花さんは一度飲んでカップを戻し、ようやく口火を切った。
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