身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「昨日、剛士に聞きました。路上で揉めたんですって? さぞ注目されてたんでしょうね。私はその場にいなくてよかったわ」

 くすっと小さく笑いを零し、続ける。

「剛士があなたに興味を持っていたなんて知りませんでしたわ」

 興味云々は私だってよくわからない。知らないうちにそうなっていたから……。

 夕花さんは腕を組んで、窓の外へ視線を向けた。

「それにしても……。あなたを取り返すためだけに人目も憚らず剛士とやり合ったなんて、常識では考えられないわ」
「そ、そんな大事にはなっていなかったとは思いますが……」

 周りに注目されるほど、派手に言い合いをしていたり衝突していたわけではなかったはず……たぶん。

 それでももしかしたら目立っていたのかも……と肩を窄めていたら、夕花さんはふいに切れ長の目を私に向けた。
 そして、艶やかな唇に薄っすら笑みを浮かべる。

「鷹藤様は常に冷静沈着な方なのに……よ」
「え……」
「もう知っているみたいだから伏せずに言うけれど、ホテルのバーを出た後も、私が迫っても眉ひとつ動かさずに鮮やかに躱されたわ」

 私は覗き見してしまったときの光景を思い出し、微かに胸が軋んだ。
 夕花さんは優雅にカップを持ち上げ、苦笑交じりに言う。

「その直後の話だもの。彼がなりふり構わずあなたを奪い返したのは。そんな話を聞いたら、私にはまるで入り込む余地などないって思い知らされた」

 成さんが冷静で時々狡猾な人だって知ってる。
 確かに、そんな彼が剛士さんの前ではすごく感情的になっていた。

「勝負の行方は明白ね。少し悔しいけれど潔くあきらめるわ」

 夕花さんは紅茶を口に含み、おもむろにカップをソーサーに置くと、晴れ晴れした顔で私に笑いかけた。

「私も彼みたいに想ってくれる相手を探すことにします。いろいろごめんなさい」
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