身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「私はどちらでもいいですが。行き先が決まってるんですか?」
「今日は少し肌寒いですし、屋内で過ごすのは? この辺りだと、プラネタリウムとかミュージカルとかありますよね」
「ミュージカル! 機会がなくて観たことないんですよね」

 私は成さんの提案に、素になって答えていた。
 はっと我に返ったときには、成さんから優しい眼差しを向けられていた。

「興味あります?」

 くすくすと笑われながら聞かれ、私は首を窄めて小さく返した。

「……はい。成さんは?」
「海外にいたときにブロードウェイに何度か足を運びました。好きですよ」

 完璧すぎる笑顔に加え、『好きですよ』がイケメンすぎる! 声も顔も全部がかっこいいなんて反則だ。

 暴れる心臓を密かに押さえ、平静を取り戻している間にふと思う。

 成さんは、母が言った通り結婚相手は選び放題だろう。美人な人や頭脳明晰な女性を求めたって、彼なら釣り合う。
 むしろ釣り合わない私に、成さんはどうしてわざわざ時間を割くのか。

「希望の席はありますか?」
「えっ? ああ! 私はどこでも」

 私がひとりでぐるぐると考え事をしている間にも、成さんはスマホでチケットを取ってくれているみたいだ。

「ではせっかくなので前列のほうで取りますね」
「あ……ありがとうございます」

 うーん。ますます欠点が見つからない。絵に描いたような理想の彼だ。

「チケット取れました。開演時間まで間もないので急ぎましょう」
「え!」

 瞬く間に手を取られ、走り出す。
 突然だったのもあって、私は彼と手を繋いだまま、懸命についていった。

 五分ほどで商業施設に到着し、エレベーターに乗った。

「走らせてしまってすみません」

 成さんはさほど呼吸は乱れていなかった。
 だけど私は社会人になってからめっきり運動もしなくなったため、数分でも息が上がる。
 久々の苦しい感覚に、自然と笑いが零れてきた。

「あはは。成さんでも急いで走ったりするんですね。いつでも優雅に振る舞うイメージだったので」

 私が言い終わると同時に、十五階に到着した。エレベーターを降りるとすぐ、劇場のエントランスが見える。

 壁が一面窓ガラスなのもあり、外の光が入ってきて明るい空間だった。
 開放的なエントランスに感嘆の息を漏らしていたら、成さんが顔をそっと近づけて囁いた。

「梓さんの中で僕はそういうイメージなんですか。全然そんなことないのに。僕も必死になったりしますよ」

 普通に話すより若干低い声にドキッとする。

「そう……なんですね」

 その後、ホールに入って席に着くと、すぐに開演した。

 おかげで妙な動悸に悟られる心配もなく、敢えて舞台だけに集中していた。




< 21 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop