身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「なにか食べたいものはありますか?」
「えーと……考えてなかったです。苦手なものはないので、成さんのお好きな場所があればそちらでも」

 移動先がどこでも構わない。ただ、手が!

 エスカレーターを降りてもそのまま。

 繋いでること忘れてる? 離すタイミングがわからないよ。

「そうですか。だったら、付き合っていただいても?」
「は、はい。もちろんです」

 あたふたと返事をしたら、彼に微笑み返される。

 成さんはふいにこういう表情を見せるから心臓に悪い。
 無意識にしているんだろうけれど、相手が女性ならうっかり恋に落ちると思う。

 たぶん普段から物腰柔らかでスマートなんだ。職場でも相当モテてるに決まってる。

 十分ほど歩いて行くと、細い小道にたどり着く。
 あまり人通りもないその道を、成さんが迷わず足を進めるので私もくっついていった。

 十数メートル進み、彼が立ち止まったそばには年季の入った木のドアがあった。
 私は小さなルームプレートの文字を読み上げる。

「『本の隠れ家』……ここは?」
「昔から気に入っている場所です。梓さんも好きになってくれるといいんですが」

 成さんはにこっと笑って、ドアを引いた。
 促されて中へ一歩入るなり、たちまち本の匂いに包まれる。オルゴールの音楽が流れる中、店内を見回してみる。

 壁や床、テーブルすべてが温かみのある木製。アンティークな照明がオレンジ色に照らす空間は、なんだか別世界に感じさせた。

「奥の席が空いてる。あそこに座りましょう」

 背後から耳元に唇を寄せられて、危うく声を漏らすところだ。
 私は冷静を装って、一番奥の席へ向かった。

 ここは図書室? 所狭しと本が並んでいる。
 壁はすべて本棚。それも、天井までびっしり。
 来店しているお客さんは、本を手に読み耽っていたり、友人と一冊の本を共有して楽しんでいる光景が見られる。

 あれ? だけど、テーブルに飲み物や食べ物が置いてあるところも……。ここはカフェなの?

「はい。メニュー」
「あ。やっぱりカフェだったんですね」

 私は成さんからメニューを受け取り、こっそり周辺のテーブルに目を向ける。
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