身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「うん。でも本も借りて帰れますよ」
「そうなんですか? へえ。こういう場所があるんですねえ」

 時雨グループは大手出版社で、私がいる会社ももちろん本は深くかかわる事業だけれど、電子ばかり。
 こうして実物の本に触れる機会って、知らない間に減ってるんだよね。

 早速メニューを開くと、数は多くなかった。が、見覚えのある本のタイトルがあって、思わず凝視する。

「ん? これって、もしかして全部本で出てきた料理ですか?」
「そうです。店主が本の中の料理を再現して作ってくれているんですよ」
「すごい。面白いですね! あ、私この絵本読んだことあります。わあ~、トマトから作るオムライスだ。私、これがいいです!」

 昔読んでいた絵本がメニューのラインナップにあって、つい興奮する。

 すると、成さんがくすくすと笑った。

「即決ですね。じゃあ僕はサンドイッチにしようかな。飲み物はなににします?」
「ええと、ぶどうジュースで」

 彼は私が答えた後、すっと片手を上げてスタッフに合図し、オーダーを済ませてくれる。
 私はそんな姿をちらっと見て思った。

 成さんって、すごく気が利くし、よく笑うし……。感じはいいし、およそ欠点が見つからない人だ。
 こんなにいい相手だったのに、友恵ちゃんはどうして無断ですっぽかしたんだろう。

 彼女も穏やかなタイプだし、すごくお似合いなのにな。単純に伯父に反発したくなったとか?
 うーん、これまで友恵ちゃんが反抗した話なんて聞いたことないし、それはないかな。

 ぼんやり考えていたら、成さんと目が合った。
 ずっと見ていたのがバレたのでは、と慌てて視線を逸らす。

「ここは本を多種多様に揃えているんですね。だから客層も広いんでしょうね」

 とにかくなにか話題を……と切り出した。

「そう。以前、スーツ姿で入店しても違和感なかったです。いろいろな人が利用しているので」

 今も、店内には女性のひとり客や中年の夫婦、若い男性客もいる。
 私は目線を再び手元に戻し、話題を変えた。

「やっぱりそうなんですね。あ。これも有名な絵本のおやつですね! パンケーキかあ。これも美味しそう」

 急に落ち着かなくなってきた。

 オーダーも決め終え、ただ向かい合って料理を待つって緊張するものなんだな。
 さっきの公演は席が隣で、視線が合ったり会話したりはなかったからか。
 目のやり場でさえ、どうしたらいいかわからなくなってしまった。

 メニューから顔を上げられずにいると、成さんに聞かれる。
< 24 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop