身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「梓さんは、洋菓子は好きなんですか?」
「え? はい。甘いものは全般的に好きですが」

 洋菓子は……って。なにか引っかかる聞き方で内心不思議に思っていたら、彼が言った。

「お見合いの日、梓さん、茶菓子に手をつけなかったでしょう? 和菓子が苦手なのかと思って」

 私は目を丸くした。そんな些細なところを見ていたなんて。

「……ああ。緊張していて食べる余裕なかっただけなんです。和菓子も好きですよ。あんな素敵なホテルの和菓子だったらよっぽど美味しかったんだろうな。今になって後悔してます」

 うれしいような、気恥ずかしいような。
 自分で自分の感情がわからなくなる。

「それなら今度改めて行きましょう」

 さらりと口にされた誘いに目が点になる。

「えっ。いや、でもほら。私には敷居が高いっていうか」
「僕も和菓子好きなんですよ。ぜひ一緒に付き合っていただけるとうれしいです」

 成さんは有無を言わさない極上の笑みでそう言った。

 ちょ、ちょっと待って。なにこれ。なんで私、胸がドキドキして……。

「お待たせいたしました」

 そこにスタッフが飲み物を運んできてくれた。私はほっと胸をなでおろして、「いただきます」とジュースを口に含む。

 芳醇なぶどうの香りが口から鼻へ抜けていき、一瞬で虜になった。

 まもなくして料理も運ばれて来た。
 私がオーダーしたオムライスは、絵本を忠実に再現されていて驚いた。

 ふと向かいに置かれた皿にも目を向ける。成さんがオーダーしたサンドイッチは、作品を知らないけれど、彩りがよくて美味しそうだった。

 私は両手を合わせた後、ひと口目でその優しい味に感動し、夢中で頬張った。

 半分くらい食べ進めたところで、オムライスに集中しすぎだと我に返る。

「す、すみません……。思わずひとりの世界に没入してしまい……」

 おずおずと彼を窺うと、失望の色などまったく見せず、むしろ穏やかな表情を浮かべていた。

「謝る必要はありませんよ。さっきの公演のときも感じましたが、梓さんは目の前のものにすごく集中するんですね。誘い甲斐があります」
「ああ……。もれなく集中しすぎて周りが見えなくなるという欠点もついてきますが」
「なるほど。じゃあ、そばについていてあげなきゃ心配かな」

 私は成さんの言葉にドキリとさせられ、もう一度心の中を整理した。
 数秒後、思い切って口を開く。



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