身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「私には勿体ないお言葉です。成さんと違って、私はこれといって取り柄もない人間ですし……。若くして次期頭取が決まっている成さんの隣に相応しいとは思えません」

 謙遜ではなく事実だ。

 友恵ちゃんは昔から着付けとか英会話とか、マナー講習とか、それはもういろいろと習っていた。
 比べて私は英語は苦手だし、着物だって着付けどころか着慣れていなくて疲れちゃうし。
 唯一習っていたピアノも、趣味程度でパーティーとかで披露するレベルでもない。

「仕事は関係ないですよ。取り柄がないだなんて、どうしてそんなことを思うんですか? 梓さんは素敵な人だと思ってます」

 しれっと返され、さらにびっくりする。
 そんな言葉をかけられたのは生まれて初めてかもしれない。

 でも、やっぱり変。

「なぜ簡単に言い切れるんですか? 第一、出会ってすぐ結婚を見据えた付き合いをしたいだなんて……。しかも当初の相手は私の従姉妹ですよ? 彼女と私はまったくタイプも違うんです。信じられません」

 ハイスペックな男性に言い寄られてうれしい感情より、急展開が怖すぎる。

 だって、あまりに都合よすぎて。
 結婚相手は誰でもいいんじゃないかとさえ勘繰り始めてしまった。

 私は考えているままを顔に出していたのか、彼は小さく肩を落とす。

「梓さんの言うことはわかります。でも、出会った後の時間の長さが理由で断るつもりなら納得いかないかな。まず僕を格付けした後でもいいですよね?」
「格付け?」
「あ、すみません。仕事のクセでつい……。要するに僕を信用できるかできないかジャッジするってことです」

 成さんの言い分もわかるような……。

 私も成さんに対しては第一印象が悪かったわけじゃない。むしろ良すぎたくらい。
 ある程度、ちゃんと彼の人となりを知ったうえで返事をしないと相手側は納得いかず、失礼かもしれない。

 すると、成さんが凛とした声で言った。

「初対面の時点でどうしても無理だったって言うなら……潔くあきらめます」

 あきらめる、というワードに反して、彼の双眸は熱く滾っているように思える。

 私にも不可解な部分はまだ多い。ただ、目の前の彼からは真剣な気持ちが伝わってくるのはわかる。

 彼の瞳を前にして、『ありえない出会い方だったから』って理屈で拒否するのは罪悪感に苛まれそうだ。

 私がひとりで考え込んでいたら、成さんに尋ねられる。
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