身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 食事を終えた私たちは木の隠れ家を出る。

 私は成さんから離れ、自宅に連絡を入れた。

 とりあえず、「話があるから成さんと今から帰るね」とだけ伝えた。

 すると、予想以上に母のテンションが高めだったため、帰宅後、母の対応が心配すぎる。
 浮かれて成さんに変なこと言ったりしなきゃいいけど……。

「梓さん?」
「あっ、すみません。だ、大丈夫でした。このまま向かっていいですか?」

 成さんに声をかけられ、慌てて取り繕ってスマホをしまう。
 成さんは頷いてすぐ、すぐ近くの百貨店に視線を移して言った。

「ああ、少しあそこに立ち寄らせてください」
「はい。いいですよ」

 私たちは駅直結の百貨店に向かって歩き出した。
 並んで歩いている間に、彼が苦笑交じりにぽつりと零す。

「突然すぎて、梓さんのご両親の心象が悪くなっていなければいいんですが」
「そういうタイプじゃないので心配無用ですよ。ところで、そうなるとうちだけじゃなく成さんのほうも同じように挨拶に伺ったほうがいいのでは……?」

 父は人を嫌うタイプじゃないし、母に至っては今頃必要以上に楽しみにしているだろう。
 うちの心配はしていないが、ふと鷹藤家が気になった。

「とりあえず、先に梓さんのご両親に承諾いただいてからで。まあ、こちらは気遣いいりません。僕が伝えておきますし」
「そうですか?」

 こういうシチュエーションは当然初めてだし、どう振る舞うのがベストなのか見当もつかない。

 ただ、どうせ数か月で無縁になるのがわかっていて、成さんの実家へ挨拶に行くってのは、正直気が重いから助かったかも。

 ひとりでいろいろと考えを巡らせている間に、成さんは菓子折りを買っていた。

「えっ。まさか、うちにですか?」
「そう。手ぶらでは行けないので」
「なんだかすみません……」
「いえ。言い出したのは僕のほうでしょう」

 成さんは菓子折りを手に持って、さわやかに微笑む。
 それから、駅へ行き私の家へと向かった。
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