身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 相談って、なに? 私、聞いてないよね?

 なにか嫌な予感がして、彼を凝視する。

「つきましては、梓さんと生活をともにさせていただきたいのです。結婚前に不誠実と思われるかもしれませんが、将来を具体的に想像できるという前向きな気持ちからですので、どうかご理解いただけませんでしょうか」

 またしても、美しいお辞儀をしたかと思えば、放たれた言葉に驚倒させられた。

「ちょっ……」
「あら~。いいじゃない? 私は結婚前の同棲は賛成派なの。一緒に暮らしてみないとわからないことって多いでしょう? 結婚してから梓に失望されるよりは、そっちのほうがご迷惑にもならないでしょうから」

 失望とか迷惑とか! 母親のくせにちょいちょい娘を貶すし!
 しかも、「ね、お父さん」って同調求めたくらいにして。

 父も父で、「んん」って曖昧な咳払いだけして!
 って、いや、今はそんなことよりも……。

 成さんに目で訴えるも、華麗にスルーされる。

「不躾なお願いをお聞き入れくださり、本当にありがとうございます」

 安堵の色を浮かべてお礼を言わないでよ!

 心の中の叫びが止まらない。
 人間って、ありえない状況に置かれると案外なにも言えなくなるらしい。

「新生活はどこで始めるのかしら?」
「先日、港区でマンションを借りました。4LDKで部屋はありますので、梓さんも不自由な思いはしないと思ったのですが。いかがでしょうか」
「まあ。じゃあ十分ね。港区なら梓も通勤が楽になるじゃない。よかったわね、梓」
「えっ」

 母が両手を合わせて喜ぶのを見て、混乱した私は隣の成さんをもう一度見た。

 彼は確信犯だ。
 私と目が合うなり、ニコリと笑って私を窮地に追い込む。

 下手に必死になって訂正し始めれば、質問攻めが待っている。

 そうなったら私にはうまく処理できないと考えているうちに、成さんと両親の話はどんどん進んでしまい、後には引けなくなっていた。
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