身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「やっぱり……」
「撤回はなしだよ。三か月は俺自身を……俺だけを見て付き合うって約束しただろう? ご両親にも筋を通したばかりだしね」

 すらりと長い人差し指を私の唇の前に出され、言下に却下される。

 私は、ぐっ……と言葉を飲み込んだ。

 悔しいけれど言い返せない。
 共同生活の面は納得いかないけど、三か月付き合うのは自分で決めて返事をしてしまった。

 ふいに場にそぐわない、楽し気な笑い声が聞こえる。

「ふふ。本当、真面目だね。そういうところが好きなんだけど」
「なっ……」

 彼はごく自然に私を『好き』と口にする。

 本心か、はたまたなにか目的があるのかわからない。が、好意を直接的に表現されるのは慣れていなくて、顔が熱くなる。

「じゃ、明日迎えに来るよ。また電話する」
「あっ、明日!?」
「都合悪い?」
「都合がどうとかじゃなく! あなたがこういう人とは思わなかった!」

 勢い任せに本音をぶつけてしまった。いくらなんでも失言だったかと口を押さえた。
 気まずい心地で目を泳がせていると、成さんがぽつりと聞き返してくる。

「こういう?」
「ほら……なんていうか……人を欺くような、こと」
「嘘はついてないよ。見合いの席も今日も、今も。どれも本当の俺」

 彼は淡々と答えながら、ゆっくりと私に近づいてくる。
 怒らせてしまったかと、肩を竦めていたら、手を掬い取られる。

「これからちゃんと全部見せるから、君についても教えて」

 そのときの彼は、至極柔らかな表情だった。

 私の胸の奥が、小さな音を立てている。
 思考とは裏腹な心の反応に戸惑いを隠せない。

 成さんはやさしく目を細め、するっと離した手を私の頭にぽんと置いて、踵を返していった。

 私は彼の背中を瞳に映し、茫然と立ち尽くす。


 信じられない。誰か、これは嘘だと言って――。
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