身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 一週間経って、ちょっと慣れてきた帰り道。

 と言っても、マンションは最寄り駅から徒歩五分ほどの距離で、そのうえ近隣マンションと比べひと際高いから、初日から迷わずに帰ることができた。

 駅前のスーパーで買ってきた食材をキッチンに運び、ひと息つく間もなく夕食の支度を始めた。

 今日のメインはジンジャーハンバーグ。
 なんとなく、以前聞いた嫌いなものから予測し、だったら好きなものも単純なものだったりして……と考えた。

 私の帰宅から約一時間後。ふいにリビングのドアが空いてびっくりしたら、成さんが帰宅したらしい。

「ただいま。玄関まですごくいい匂いがする」
「お、お疲れ様です。もうそろそろかと思って今焼き始めたところで」

 フライパンからの音で玄関の鍵が開く音に気づけなかった。
 成さんはそのままキッチンに来て、フライパン覗き込む。

「今日はハンバーグだ」
「大抵誰でも好きかと思って。あとは私ハンバーグなら失敗しないので」

 社会人になってから料理を始めたから、正直言って得意と豪語できるほどじゃない。失敗するリスク背負ってまで見栄を張るのもなんだし、と身の丈に合った料理にしたわけだ。

 ジュウッといい音を立てるフライパンを見ていたら、優しい声が耳に届く。

「うん。好き」

 思わず彼を見上げ、目を見開く。

 主語は『ハンバーグ』。
 わかっていても、省略されて言われた単語はふいうちで、ドキッとしてしまった。

 私がどぎまぎしていると、成さんはにっこりと笑う。

「色々考えてくれたんだ。うれしいよ」
「あっ……」

 動揺した私は、フライパンの音の変化にはっとして、危うく焦げそうになったハンバーグを慌ててひっくり返した。
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