身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 その後、成さんは私の作った食事を綺麗に平らげてくれた。

 今まで両親にしか自分の手料理を振る舞ったことがないから、毎回成さんに食事を出すときは緊張する。
 同時に、『美味しい』と微笑まれるたび、気分が浮き立った。

 今夜も私が先にお風呂を済ませ、交代で成さんがバスルームに行っている間に、荷物を置いてある部屋へ向かう。

 旅行用のポーチから折り畳みの鏡と基礎化粧品を取り出し、手早くケアをする。軽く髪を乾かして、リビングに戻った。

 ソファの端に座って、なにげなくスマホを弄る。
 実家でも、ほっとひと息ついたときには、ついついスマホを見ていた。

 ネットニュースを読んだり、ショッピングサイトを眺めたりもするけど、職業柄電子書店サイトやアプリ、電子書籍を読み漁ったりしている。

 スマホで雑誌を読んでいたら、成さんがやってきた。無意識に彼へ目を向けるや否や、彼の色気に当てられてどぎまぎする。

 もう。どうしてイイ男は濡れると艶っぽさが増すんだろう。目線を逸らせばいいだけの話が、その魅力に抗えない自分がいる。

 見れば気持ちが落ち着かなくなるってわかっているのに。

 成さんは私の視線に気づいていないみたい。
 キッチンへ入ってミネラルウォーターをグラスに注いで飲み始める。

 お風呂上がりならめずらしくない光景だ。
 けれども、彼にかかるとグラスを持つ手指や、飲み干す直前に天井を仰いだ際の顎から喉にかけてのラインとか、妙に色っぽくて。

 成さんが顔を戻した瞬間、目が合いそうな予感がして慌ててスマホに視線を戻した。

「俺もそっちで本読んでもいい?」
「えっ。はい。もちろん……っていうか、成さんの家なので、私を気にせず普段通りに過ごしてください」

 盗み見していたのもあって、ひとり気まずい思いで笑顔を取り繕う。

 私はさりげなく座り直し、さらに隅に寄った。
 成さんはキャビネットのうえからおもむろに眼鏡を取って耳にかける。
 稀に見る眼鏡姿にまたもや意識が向いた。

 イケメン+お風呂上がり+眼鏡……。
 今私、女の子からものすごい羨ましがられるものを間近で見ているのでは……。
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