身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 スマホを見ているふりをして、横目で成さんを窺う。

 彼はL字ソファの足置きに長い足を軽く組んで、リラックスした体勢で本を開き始めた。

 横顔から彼の鼻梁が高く通っているのを実感する。

 一メートルくらい離れた位置からでも、肌の綺麗さや睫毛の長さがわかる。
 睫毛なんて、眼鏡のレンズを掠めるんじゃないかってほど。本当に女の子も羨むような容姿の持ち主だ。

 ふと、今朝の稲垣さんとのやりとりが蘇る。

 私、幻滅されたって構わないからって素顔でいるけれど、成さんを見ていたらさすがに居た堪れなくなってきた。

「……ねえ。俺、誘われてる?」

 突然彼の端正な顔がこちらを向いて、ギクッとする。

「はっ……? え? な、なにを……」

 しどろもどろになっていたら、彼はパタンと読みかけの本を閉じ、まっすぐ私を見て言う。

「俺がリビングに来たときから、ずっとこっちを見てただろう」

 今だけでなく、さっきから気づかれていたと知り、激しく動揺した。

 どうしよう。どう答えたら自然だろうか。このままじゃ、誤解されちゃう。私は別に成さんを誘っていたわけじゃないのに。

 あわあわとするばかりで、二の句が継げない。

 その間に、成さんは手を伸ばして私の腕をグイッと引き寄せた。
 手の中のスマホがカーペットの上に落ちる。

 私はバランスを崩し、上半身が成さんのほうへ倒れた。

 すぐに起き上がろうとしたけれど、彼が真上から顔を覗き込んできて動けない。

 私の視界には成さんだけ。

「その大きくてつぶらな瞳でそう見つめ続けられたら、意識するなというほうが無理」

 漆黒かと思っていた成さんの瞳は、間近で見ると濃褐色で美しい。

 見惚れているうちにしっとりとした声が落ちてきて、ツッと頬に指先が触れる。
 微かな感覚にもかかわらず、私に大きな影響をもたらす。

「この一週間感じてたけど、無防備にもほどがあるよ?」

 心臓ってこんなに早く脈打つものなの?
 自分の身体なのに、まったく別のものみたい。

 至近距離で覗く彼の前では少しも動けなくて、息をするのがやっとだ。
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