身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 それから今日まで数日間、かなり神経を使って過ごしていた。

〝そういう〟雰囲気にならないように気をつけつつ、あからさまに避けたりせず、普通に接する――。

 これがまた難しい。

 なにせ私は〝大人の付き合い〟の経験がない。
 どれが危険なスイッチに触れるのか、はっきりと線引きできていない。

 あの日だって、彼の整った顔立ちをちょっと見ていただけだったのに。

 ……まあ、ほんの少し、『セクシーだな』とかよこしまな気持ちで眺めていたのはあったから、そういうところを気をつければいいのだろう。

 成さんは週末で仕事が立て込んでいるのか、一緒に暮らしてから初めて《遅くなりそうだから夕飯は作らなくても大丈夫だよ》と食事不要の連絡がきた。

 色々と張り詰めていたのもあって、夕食は気を抜いてもいいとわかるなり、つい胸を撫で下ろしてしまった。

 なにせ、料理も決して得意ではない。
 やはり、家族以外の人に振る舞うのは毎回メニューを考えるところから慎重になるし。

 自分だけの食事を簡単に用意し、入浴も済ませて週末の夜をゆったりと過ごしていたら、スマホが鳴りだす。
 成さんかな?と思ったけれど、ディスプレイを見たら【非通知設定】になっていてすぐさま応答した。

「もしもし!」
《梓ちゃん? 私……友恵です》

 やっぱり! 友恵ちゃんだ。

 私は思わずソファから立ち上がる。

「この前はごめんね。お父さんが途中で……」
《ううん。私のほうこそ急だったし、梓ちゃんには迷惑かけたし、本当にごめんなさい。あの……その後は変わりはない?》
「あー……」

 変わりないかと聞かれれば、かなり環境が変わった。

 言い淀んでいたら、友恵ちゃんが不安げな声を漏らす。

《え……。もしかして、なにかあった……?》
< 57 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop