身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 お見合いの一件は友恵ちゃんにも関係している話だった。

 だけど、それから期間の決まった恋人になり、一緒に生活することになったのはあくまで私の決断。
 とはいえ、後々どこからか耳に入るよりは、今さらっと報告したほうがいいのかな。

「実はね」
「ただいま」

 迷いに迷って切り出したのと同時に、成さんがリビングに現れる。
 私はびっくりして目を剥いて固まった。

「おっ……おかえりなさい」
「あ、電話中だったんだ? ごめん。俺のことは気にしないでいいよ。このままお風呂に行くから」

 どうしようかと狼狽えていたら、成さんは気遣ってすぐにリビングから出て行った。
 ほっとするものの、まだ心臓はバクバクいっている。

「ご、ごめん。えっと、なんだっけ……」

 予想外の展開にさっきまでの会話さえ飛んだ。
 すると、友恵ちゃんが不審そうに尋ねてくる。

《今の……誰? 『ただいま』って聞こえたけど……叔父さまの声じゃないよね?》

 こうなってしまえば、もう話す以外の選択肢はない。

 私はひとつ息をついてから、成さんに届かないよう声のトーンを落として答えた。

「うん。あのね、色々あって鷹藤成さんと暮らしてる……」
《ええっ!!》
「いや! これはもう私の勝手な判断だから! 友恵ちゃんは気にしなくてもいいやつだから!」

 スマホの向こう側で盛大な驚きの声を聞き、慌てて返すも彼女は動揺を隠せないらしい。
 ずっと《えっ》とか《待って》とか頻りにつぶやいている。

 数秒待って、ようやく落ち着いたのか友恵ちゃんが言った。

《もしかして……やっぱり私の失礼な態度に立腹して梓ちゃんに矛先が……?》
「逆恨み的なものはないと思うから安心して。ビジネスの延長って感じだから。友恵ちゃん、ごめん。今日はそろそろ電話切るね。彼、帰ってきちゃったし」
《う、うん……》

 こそこそと話して通話を終えようとした直前、ふと肝心な部分を思い出す。

「友恵ちゃんって、やっぱりもう家に戻らないの? 今後の連絡先は?」
《あっ。ごめんなさい。自分のスマホはお父さんから連絡来るから電源切ってて……。でも、もうお見合いの日も過ぎたし、早めに帰らなきゃって思ってはいるんだけど》
「あ。帰るつもりではいるんだね」

 友恵ちゃんの答えに、安堵の息を吐く。

《本当は違ったけど、彼にバレて叱られたの。でも、これ以上は彼にも迷惑がかかりそうだし。梓ちゃんにもひとりで背負わせちゃったし……》
「うん。やっぱり一度ちゃんと話し合うのがよさそう」
《ごめんね。ありがとう。また連絡するね》

 通話を終えて、ふうっと息を吐いた。

 ダイニングテーブルの前で気持ちを落ち着けていると、数分後に成さんがやってくる。
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