身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「電話終わったの? もしかして気を使って切ったんじゃない?」
「いえ。用件が済んだので」
「そう? それならいいけど」

 彼はタオルで髪拭きながら、タブレットを片手にソファに座った。

「帰りも遅かったうえ、まだお仕事ですか? 大変ですね」

 私には成さんがどんな仕事をしているかって具体的に想像すらつかない。

 ただきっと、遅くまで仕事をしてきたのに家でも……って大変そう。

 成さんは私を仰ぎ見て、ニコッと笑った。

「いや。これは業務外」
「あ……そうでしたか……すみません」

 せっかく休日前の夜だもん。ひとりでゆっくり好きなことして過ごしたいよね。

 思い違いだったと知り、そそくさとその場を離れようとすると、彼が私を呼び止める。

「あ、待って。悪いけど、眼鏡取ってくれる?」

 私は言われてすぐに、キャビネットへ行って眼鏡を手に取り彼へ渡す。

「どうぞ」
「ありがとう」

 受け取る際の彼の手を見ただけで、ドキッとする。
 軽く睫毛を伏せ、眼鏡をかける仕草さえも人の心を奪う……優艶な人。

 私ははっとして視線をずらした。

 あのまままた見入っていたら、前回と同様に迫られるかもしれない。

 あんなの二度もされたら、心臓がもたない。
 一定の距離を心がけなきゃ。

 さりげなく離れてリビングを出ようかとしたときに、またもや成さんに話しかけられる。

「ねえ。明日、明後日は予定ある?」
「いえ、ありません……けど」
「よかった。だったら二日間、俺がもらってもいい?」

 眼鏡越しに柔らかく細める目にどぎまぎする。

 なんていうか……成さんって、言い回しにいちいちドキドキさせられる。
 私の休みを『俺がもらってもいい?』って言われて、妙にときめいてしまった。
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