身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 私が消え入る声で「大丈夫です」と答えると、彼はふわっと微笑んで私を手招きする。
 私はひとり分スペースを開けて、おずおずとソファに腰を下ろした。

「軽井沢に行こうか。向こうは今ちょうど紅葉が見られる時期だったはず」
「軽井沢……」

 幼少期は家族で年に一度は遊びに行っていた。

 軽井沢なら、日帰りできなくはない距離だ。
 でも成さんは、『二日間』って言ってた。それってもしかして……。

「別荘があるから、気兼ねなくゆっくり過ごせると思うよ」
「別荘……!」

 時雨本家も立派な家を構えてはいるが、別荘までは持っていない。

「俺は十年ぶりくらいになるかな。いつも星を見るのが楽しみで昔から好きな場所なんだ。明日も天気はいいみたいだし、一緒に見ない?」
「あ……えと、つまり一泊するってお話で……?」
「そのつもりだったけど、だめだったかな」
『やっぱり』と受け止め、割り切って笑顔を浮かべた。
「いえ。じゃあ、ご一緒させていただきます」

 軽井沢へ行かなくっても、この家ですでにふたりきりなわけだし。
 いっそのこと、休日を楽しんだほうがお得だもの。

「よかった。向こうは気温が低いから暖かい服装を準備して」
「そうですよね。わかりました」

 それから、急遽決まった一泊旅行のために軽く荷造りをし、その日もまた適正な距離を保って眠りに就いた。
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