身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「あの、出かける前に……家の中を見て回ってもいいですか?」

 私は今日までずっと実家暮らしで、部屋探しをしたことがない。だから、こういった経験が初めてで、年甲斐もなくわくわくしていた。

 よその家でそういった行為は失礼にあたるとわかっている。
 だけど、別荘なら……許されるのではないかと思って。

 成さんはきょとんとしてから、「ふっ」と笑いをこぼした。

「うん。いいよ。一緒に見て回ろうか」

 彼は柔らかく微笑んで、すっと立ち上がる。

 一階にはLDKのほか、洋室がひと部屋と書斎まであって驚いた。

 二階に上がると吹き抜けからリビングが見下ろせて開放感があり、廊下の手前側にはユーティリティだけでなくバスルームまであってびっくりした。

 一階と二階にバスルームがあるなんて。

「なんていうか……とても贅沢なお家ですね」

 二階の洋室を三部屋見終えたところで、思わず口からこぼれ出た。
 先に階段を降りていく成さんが苦笑いを浮かべて答える。

「うん。だけどもうまったく利用してないしって両親がもう手放そうとしてて。それで俺が譲り受けたんだ。ちょうどニューヨークから戻ってきてたし」
「昔から好きな場所って言ってましたもんね。それを守る行動力、すごいと思います。私ならきっと決断できないかも」

 成さんが急に階段の踊り場で一度止まったのに合わせ、私も二段上で足を揃える。
 すると、彼は身体を半分こちらに向けて、私を仰ぎ見て口角を上げた。

「俺、昔から一度気に入ったものは手放せないタイプなんだ」

 成さんの視線にドキリとする。
 あまりジッと見つめて言われたら、今の言動が意味深なものに思えてしまう。

 あたふたとするばかりでうまく返答できずにいたら、成さんはいつもの雰囲気に戻って再び階段を降り始める。

「そろそろ紅葉でも見に行こうか」
「はい」

 私は深く考えるのを止め、意識を観光へと切り替えた。
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