身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「あの。こちら、落とされませんでしたか?」
「え? あら、本当。助かりました。どうもありがとう」
「いえ。……あ」

 夫人にハンカチを手渡したとき、手提げバッグのファスナー部にぶら下がっていたマスコットに目が留まった。

「そのチャーム可愛いですね。私も好きなキャラクターです」

 丸い目の愛らしい二頭身の白ネコが、魚を片手に抱えているキャラクター〝もちマロ〟だ。
 数年前からウェブでじわじわ人気が出ているゆるキャラで、私は流行当初からハマっている。

「ああ、これはこのハンカチと一緒に孫が誕生日にくれたものでねえ」
「それは大切なものですね。お渡しできてよかったです」
「あっ。少し待ってくださる?」

 ペコッと頭を下げて去ろうとしたら、女性に呼び止められる。
 女性はバッグの中に手を入れ、「ああ、あった」とにこやかに言った。

「あの……?」
「もしよかったら、これ。大したものじゃなくて申し訳ないけれど、お礼の気持ち。受け取ってくださる?」

 女性の小さな手には、花紋で象られた多角形の小箱。

 上部の中心は均等な幅で円を描くように折られていて、まるで花。

 折り紙かなにかで作ったように見受けられる。
 でも、すごく精巧な造りで思わず見入ってしまうほど。

 しかし、私ははっと我に返って遠慮した。

「えっ。いいえ、私はたまたま拾っただけですし」

 お礼をもらうまでのことをしたわけじゃない。ちょうど目の前に落ちたものを拾って声をかけただけ。当然の行動を取っただけだから。
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