身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 それから、旧軽井沢銀座をぶらりと歩き、ランチを済ませた。

 店を出て駐車場の方向へ歩みを進めていると、成さんが一軒の土産屋さんの前で立ち止まる。

「梓さん」
「はっ、はい?」

 成さんは、あの日以降、私を呼ぶ際『さん』付けに戻っている。

 元に戻っただけ。
 しかし、逆に甘く呼び捨てられた夜の記憶を際立たせ、いつまた『梓』と言われるか気が気でない。
 呼ばれたときを想像しては、無駄に心拍数が上がっていく。

「あれ、さっき梓さんも好きだって言ってなかった?」

 動揺を押し隠し、成さんが指をさす方向へ顔を向ける。
 店内入り口のすぐ奥に陳列されている商品を見て、思わず声を上げて駆け寄った。

「えっ。わあ、本当だ! すごい。軽井沢のキャラクターとコラボしてるなんて」

 成さんが見つけてくれたのは、さっき滝の前で会った女性がバッグにつけていた、もちマロのグッズ。
 軽井沢のキャラクターの着ぐるみを着ているデザインが可愛い。

「期間限定って書いてる! 〝限定〟ってズルい~」

 つい成さんの存在を忘れ、ひとりテンションが上がってしまっていた。
 背中越しにくすっと笑われ、我に返る。

「すごい目が輝いてる」
「あっ……、ご、ごめんなさい」

 子ども染みたところを見せてしまった。いや、それで敬遠されるなら一向に構わない……といっても、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

 あたふたしていると、成さんが横に来ては商品にスッと手を伸ばす。

「気に入ったのはどれ?」
「え、あ……いや」
「あー、全三種なんだ。じゃあ全部買っちゃおう。ほかにも欲しいものある?」

 さくさくと話を進められて戸惑う。

「えっ……いや、私が自分で」
「俺が買ってあげたいの。ダメ?」
「ダメってことは……すみません。ありがとうございます」
「うん」

 あんまり意固地になって遠慮するのも可愛げないし、店先で迷惑かもと思って彼の厚意に甘えた。

 車に戻ってシートベルトを締めた後、買ってもらったボールチェーンのキーホルダーを眺めては癒されていた。
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