身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「もしよければ、裏庭もご覧になっていってください」

 自意識過剰に陥りかけていたとき、牧師さんに声をかけられてドキリとする。

「はい。ぜひそうさせていただきます」

 私がどぎまぎとしている間にも、成さんはまったく動じず、礼儀正しく返答してくれた。

 私は優しい表情を浮かべる牧師さんをなんだか直視できなくて、パッと俯いた。
 私たちに向けられた笑顔が、結婚間近の恋人を祝福するもののように感じられて。

「じゃあ、せっかくだし外に出てみようか?」
「は、はい……」

 私たちは礼拝堂を出て、ふたりで奥へと歩みを進めていく。

 車から来た道と比べ、灯かりは少なめ。
 ぽつぽつと誘導するためだけに、ランタンが置かれているみたい。

 蛇行した道を十数メートル歩いていくにつれ、木々の隙間から光が見える。

 さっきまで辺りが仄暗かったのに、徐々に明るさを増してきて期待が高まる。
 小道を抜けて裏庭に着いた瞬間、感嘆の声が漏れ出た。

「う、わあ……!」

 地面に美しく曲線を描くキャンドルライト。
 アクセントで緑やピンク色の炎もあって、表現しがたい感動を覚えた。

 ところどころピラミッド型に積まれていたり、木の枝にぶら下げられていたり……。とにかく圧巻だった。

 私は瞬きをするのも忘れ、辺りの景色を眺めるのに没頭した。

 軽井沢にこういった教会があるのも、こんなに素晴らしいキャンドルナイトを催してるのも知らなかった。
 キャンドルの中央まで足を向けたら、地球上ではないどこかの世界に浮かんでいるみたい。

「想像以上です。こんなにたくさんのキャンドルが飾られてるなんて……本当に綺麗」
「うん。空気が凛とする中でいくつもの炎がゆらめくこの空間って、特別な瞬間だなって感じる」

 木々の香りをほのかに感じ、澄んだ空気に触れながらキャンドルの海を歩く――確かに特別な時間。

 私は恍惚として、瞳にキャンドルを映し、ぽつりと零す。
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