身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
「お風呂、わいてるよ。冷えただろう? 先に温まっておいで」

 別荘に戻ってすぐ、私はお風呂をいただいた。

 一坪半くらいのゆったりした広さのバスルームは開放的。
 窓もついていて、夜空を眺めながらバスタブに浸かれる。

 けれども私は、大きなバスタブで足を伸ばすどころか膝を抱えていた。
 背を丸め、そっと唇に触れる。

 ――『続きは戻ってから』

 成さんの声がまだ耳の奥に残ってる。
 なにが起きたか、まだ頭の中が混乱して冷静でいられない。

 キスされるのがわかっていて……逃げられなかった。ううん。逃げなかったのかも……。

 だって……だって。誰だって錯覚しちゃうよ。
 あんなシチュエーションで次々と恋人同士みたいな会話してくるんだもん。

 しかも、会話だけじゃなくてキスも本物の恋人のように……。

 お湯を掬って顔にかける。一度じゃ足りなくて、二度も三度も。

 口づけられた感触はもちろん、あの瞬間のドキドキが蘇る。
 こんな感情を何回も反芻していれば、本当に引き返せなくなりそうだ。

 窓を少し開けて、涼しい空気を感じた後に星空を仰ぐ。

 私、雰囲気に流されたわけではなくて、本気で彼を意識し始めてる。
 それがわかっているから、身体が温まっていてもなかなかバスルームから出られない。

 まだ成さんの前でどういう顔をしていいかわからない。
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