身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 十五分後。

 バスルームを出た。階段に向かう途中、吹き抜けから階下にちらりと目を向けると、ソファに座ってテレビのニュースを眺めている成さんの姿が見えた。

「お待たせしてすみません。お風呂どうぞ」
「ゆっくり温まれた?」
「はい。おかげさまで。お風呂に入りながら星を見れるなんて贅沢ですね」
「うん。だからいつも二階バスルームに入るんだ。じゃあ俺も行ってくるよ」

 成さんはリモコンでテレビを消し、ソファを立って二階に上がっていく。

 私はリビングにひとりになって、「ふう」と息を吐いて脱力した。

 薪ストーブの前に行き、床に腰を落とす。
 ぼんやりと薪が燃える光景を目に映し、平静を装ってはいても心臓はドクドク鳴っているのを感じていた。

 成さんはもうすっかり普通に戻ってる。

 彼の言動よくよく思い返したら、女性に対してああいう態度を取ることに慣れている気がしてきた。
 彼は海外生活が長かったというのも、そう思うひとつの理由。

 対して私は豪語できるほどの恋愛経験もなく……実は一線を越えたことはない。キス止まり。

 ……キスだって。さっきした膝にくるほどのものなんか初めてだった。

 ああ、もう。早く忘れて平静に戻って応対したいのに、全然無理。
 成さんの感触が全身に残ってる。

 寒いわけでもないのに、ぎゅうっと自分を抱きしめる。

 私は友恵ちゃんの代わり。この感情は一過性のもので、彼の目的は〝時雨〟――。

 何度も心の中で唱えて、少しずつ気持ちを落ち着かせる。

 なにもせず座っているのも限界で、気を紛らわせるため、おもむろにバッグのもとへ足を向けた。
 中からお土産屋さんで買ってもらったキーホルダーと、行きずりで会った女性からいただいた小箱を取り出す。

 私は金平糖をひと袋開けて、ひと粒口に入れた。

 金平糖なんて食べるのいつぶりだろう。懐かしい。

 幾分か気持ちが和らぎ、お気に入りのゆるキャラを三つ並べる。

 数分後、成さんが戻ってきた。
< 80 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop