身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 成さんに迫られ、追い詰められた私は焦慮に駆られる。

 彼に押さえつけられた手は、抵抗すれば抜け出せそう。
 たぶん成さんはわざと私に逃げ道を用意してる。

 ……でも、私を見下ろす彼の眼は悪ふざけには思えない。

 黒い下心があるようにも見えなくて、ますます私の頭は混乱する。

 恐怖心は……ない。
 正直、彼にこうされてときめいている。

 しかし、手放しで飛び込んでいけないのは、彼の本心がわからないから。

『好き』と言われても信じ難くて、素直に納得できていない。

 感情と理性でせめぎ合い、すぐには答えなど出せなくて、私は横を向いて再び目を閉じた。

 押さえられた手にゆっくり重みがかかるのを感じる。同時に、視界を閉じていても成さんの顔が近づいてきているのを察した。

 神経が昂っていて敏感になる。
 彼の息が頬に当たったのを感じ、さらに動悸が増していく。

「こういう方法でお互いの相性を確かめれば、自分の気持ちを知るのにいいかもね」

 ポソッと耳孔に囁かれた途端、眉を寄せて肩を上げる。
 これから起きることを想像し、高鳴る鼓動に攪乱されたとき。

「でも、やっぱりやめた」

 成さんのひとことにぱちっと目を開け、彼を仰ぎ見る。
 成さんは掴んでいた手を解放し、ベッドから立ち上がった。私は混乱しながら身体を起こし、彼を凝視する。

 次はないような言い方をされていたのもあって、絶対にあのまま最後まで……と思っていた。

 成さんは拍子抜けする私を見て、微苦笑を浮かべる。

「君の自由を奪ってするのは簡単だ。でも、俺はそれじゃあ満たされない。君が本心で俺に抱かれたいって思ってくれなきゃ意味がない」
「え……」

 まだ正常に頭が動いてない。心臓はバクバクいっていて、手の感覚もない。

 私がベッドの上で茫然としていると、成さんはあっさりと隣のベッドへ移動し、ベッドサイドのランプに手をかけた。

「寝ようか。湯冷めしないようにね。おやすみ」

 ふっと最後の灯りが消えて、部屋は暗くなり、しんと静まり返った。
 私はもぞもぞと布団の中に入り、成さんに背を向ける。

 あんなふうにされた直後に、すんなり眠れないよ。

 壁をじっと見つめ、さっきのことを繰り返し再生しては考え続ける。

 彼が途中でやめてくれて、ほっとした。反面、複雑な心境にもなってる。

 私はどうしても彼が私に向ける好意に自信が持てない。
 それゆえ、寸前で止まってくれた理由も、完璧主義からくる言葉だと思い込んで気持ちの処理をした。
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