身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 休日も終わり、月曜日。

 多くの人は週明けの仕事にため息をついているかもしれないが、私は日常が始まり安堵していた。

 仕事に没頭すれば、ほかのことを考えずに済む。

 昨日、ふたりで軽井沢から東京に戻ってきた。
 成さんは前夜の出来事などなかったみたいに普通に接してきて、帰り道にスーパーに寄って食材を買って帰宅した。

 マンションに着いても会話がないわけでもなく、拍子抜けするほど元通りだった。

 でも、同居解消とか契約終了の話題はまったく出なかったから、お試し恋愛は続行なのだろう。

 となれば、また急に距離を詰められるときもある……って話よね?

 瞬時に成さんとのキスやあれこれが思い出される。

 あああ。記憶に新しいのもあって、一緒に過ごした時間やキスの感覚が全然薄れる気配がない。
 鮮明に思い出せちゃうから、そのたび悶絶する。

 もっと経験を積んでおくべきだった。……なんて、恋愛経験なんて自分の意志だけでそう簡単に重ねていけるものじゃないってわかってるけど。

 私ははっと我に返る。

 ここはオフィス。仕事中! 雑念を取り払わなきゃ。

 抱えていたデータチェックに集中し、お昼の前に開発部へ向かった。
 仕事に集中している友廣さんを見つけ、小声で呼びかける。

「友廣さん、お疲れさまです。お忙しいかと思って、資料打ち出して持ってきました。あとでメールもしておきますね」
「おお。いいところに来た。これやるよ」

 パソコンに集中していた友廣さんが、顔を上げるなりデスクの引き出しを開けた。
 そして、おもむろに私にチケットを差し出す。

「え? なんですか? サービス券?」

 受け取って見てみると、レストランの優待券。
 店名を確認し、ピンとくる。

「そー。この間の取引先からもらった。俺、使わないから時雨もらっていって」

 前に友廣さんについていった取引先のすぐそばにあるお店だ。
 おしゃれで賑わってたから、目に留まったのを覚えてる。

 チケットの期限は明後日水曜日まで。
 虎ノ門かあ。ちょっと遠回りになるけど……今日は成さんも遅くなりそうって聞いてるし……行っちゃおうかな。

「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきます」

 私は頭を下げ、浮かれた気持ちでそのまま休憩に入った。
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