身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 本当は成さんのマンションに帰ってくるのは気が引けた。けど、話がどう転がるにせよ、最後はきちんと顔を見て話しをしなきゃならないなら……と覚悟を決めてここへ戻ってきた。

 夕食は当然喉を通らず、成さんの帰宅を待った。

 こうも気落ちする必要はないはずでしょう?
 少し前まで、一日でも早くこの契約を解消して、すっきり繋がりを絶って家に帰るのが目的だったのだから。

 何度、頭の中で言い聞かせたか。だけど、どうしても私の気持ちは重たいまま。

 成さんが帰宅してきたのは、それから約一時間後。

 玄関の鍵が開く音にドキッとして、思わずダイニングチェアから立ち上がった。

「ただいま」
「おかえりなさい。お疲れ様です……」
「梓も。お疲れ様」

 軽井沢から、成さんの呼び方は完全に『梓』で定着した。
 そんな些細な部分まで、私を翻弄する。

 成さんは上着を脱いで腕時計を外しながら、さらりと言った。

「今日、友恵さんと会ったよ」

 構えすぎていたせいで、あまりにあっさり申告された事実を受け止めきれない。
 私は拍子抜けして、なにも返せず固まるだけ。

 成さんは次にネクタイを緩め、軽く目を伏せて続ける。

「彼女、家に戻ったみたいだね。その様子からすると、梓も知らなかったのかな」
「あ……え……?」

 友恵ちゃんが、自宅に……?

〝やっぱり〟と思った反面、〝なぜ私ではなく成さんに?〟と疑問が浮かぶ。
 同時にチリッとした焦燥感が顔を覗かせる。

「実際に会ったのは初めてだけど、想像通りの女性だった。さすが従姉妹だけあって、顔立ちがどことなく似て……」
「似てません」

 私はぽつりと言って、彼の言葉尻を遮った。

 成さんの発言で、疑念が確信に変わってしまった。

 本当はわかっていたけど、知らないふりをしていたかった。

 ……私、友恵ちゃんが戻った事実を先に成さんへ話していたことよりも、私になにも言わずに成さんに会っていたのが心に引っかかってる。

 この感情は、明らかな――嫉妬と独占欲。
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