身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 本心からもう逃げられないとわかるや否や、かあっと顔が熱くなり、しどろもどろになった。

「だ、だって、私たちはよく正反対だって言われてて。私が似てるなんて言えば、友恵ちゃんに……失礼ですし」

 ムキになって否定して、変に思ってるに決まってる。
 さっきから、成さんの目を見れない。

「あず――」
「ごめんなさい。私、今日なんか疲れちゃってて。先に横になっていてもいいですか? 今も寝るところだったんです」

 私は呼ばれかけたのも気づかぬふりでスルーして、無理やり口角を上げた。

「そっか。いいよ。おやすみ」

 私は「ごめんなさい。おやすみなさい」と会釈して、そそくさとリビングを後にする。
 そのままベッドルームへ足早に向かい、枕に顔を突っ伏した。

 ああ。失敗した。
 大した恋愛経験もない私にとって、成さんの一挙一動は大きな影響を受けて当然だよ。

 自分はもう社会人になって、しっかりしてるって慢心してた。

 男女のこととなれば、いくら普段は落ち着いていたって冷静さを失うのがセオリーなのに。
 なにより、期間限定の恋人だなんて持ちかけられて、了承しちゃったのが悪かった。

 甘く考えすぎてた。
 それと、自分は大丈夫って根拠のない自信を持っていた。

 土壇場になって、これまでの言動は全部、仕事の延長上の建前だったとはっきりさせられるのが怖くなった。

 私に触れたのも、『好き』って言葉も、キスも……私が『時雨』という名前だから。
 どうして、それ以外に理由があるなんて思い込んでいたんだろう。

 浅はかな自分が恥ずかしくて、ぎゅっとシーツを掴んだ。

 成さんは約束を守る人だと思う。

 だけど、この約束(婚約)には、彼の感情はきちんとあるの――?
 ……ううん。きっとないんだと思う。
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