身代わり政略結婚~次期頭取は激しい独占欲を滲ませる~
 高まる感情がこらえきれなくて目尻に涙を浮かべていたら、彼がぽつりと零した。

「俺を好きだと言って」

 私、いつの間にこんなに彼を好きになっていたの。
 求められるのに慣れていなくて、気付けばここまで深いところまで落ちてしまった。

 私は肩で息をしつつ、掠れ声で答える。

「す――き……」

 途端に、彼は瞳を大きくさせて、私の頬を包み込んだ。
 それから、おとぎ話の王子様さながらの、丁寧なキスを一度落とす。

「もうキス(これ)だけじゃ物足りない。本当はもっと君に触れたくて堪らない。梓は……?」

 この期に及んで、私の意思を尊重しようとしてくれている彼に驚かされる。
 だから――。

 私は、迷いもなく一度こくりと首を縦に振った。

 彼は喜んでくれるだろうか。

 そう想像しては、鼓動を高鳴らせ、成さんの反応を期待する。
 しかし、予想に反して、彼は私の上で項垂れていた。

 不安になり、手を伸ばした直後。

「はあ……やばい。この先は……自分でもどうなるか予測できない」

 大きな手で覆われた指の隙間から覗く、彼の照れた顔が愛おしい。

 成さんの表情に目を奪われていたら、彼は急にすっと精悍な顔つきに戻り、私の手を押さえつける。

「この前、『こういう方法でお互いの相性を確かめれば、自分の気持ちを知るのにいいかも』って言ったけど……俺は身体を重ねなくても、とっくにこの昂ぶる気持ちの正体は知っていたよ」

 薄っすらと唇に弧を描く彼を、瞳に映し出す。彼は、私の頬に鼻梁を寄せた。

「でも、たぶんこの先は……もっと梓の存在が大きくなる」
「え。あっ……」
「俺の全部、受け止めて?」

 成さんの低く濡れた声で、背中がぞくぞくと粟立つ。
 するりと服の中に潜り込ませた手に、思わず声を漏らさずにはいられなかった。

「あッ……ん」
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