8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 フィオナは落ち着かなさげに何度も振り返るが、馬上ではどうにもならないのか、腰に回したオスニエルの手に、こわごわとしがみついてきた。

「いいんですか、護衛を置いて」

「俺が誰に負けるって言うんだ?」

「実際そうなのかもしれませんが、うぬぼれが過ぎると怪我をしますよ」

 厳しい指摘に、笑ってしまう。オスニエルにそこまではっきりとモノを言う令嬢もいない。媚びてくる連中がほとんどの中、フィオナは怒りも平気でぶつけてくる。

「そういえば、氷はどうなったんだ?」

「輸入ルートを確保しました。商売に関することはあまり分からないので、サンダース商会に仲介をお願いしてあります。今は広場で店を開いている露天商が氷レモネードとして販売しています。結構人気のようですよ。そこから商売を軌道に乗せられるかどうかは、本人たち次第でしょうけど」

 通り過ぎた広場には、人だかりができていた。今はおそらく、物珍しさで売れるだろう。
 変化を加えるのは、フィオナの仕事ではない。その職にいる人々が切磋琢磨していくものだ。

「私はきっかけを与えたに過ぎません」

「……そうだな」

 オスニエルは彼女のお腹をしっかりと押さえる。そのきっかけが勝手に育ち、失えないと思うほど、大きくなっていた。少なくとも、オスニエルの中では。

「フィオナ、二か月後、父上の生誕祭がある」

「はい」

「お前を連れて出席する。ドレスはこちらで用意するが、希望があれば言ってくれ」

「……は?」

 間の抜けた声に、オスニエルは笑い出した。

「せ、生誕祭出席は正妃のお仕事では?」

「ああ。だが正妃はいないからな。いいだろう? 孤児院運営だって正妃の仕事をお前が代わりにやったんだ。今回も同じことだ」

「同じじゃなくないです?」

「とにかくもう決めた。反論は受け付けないからな」

 認めてしまえば、気が軽くなっていた。

(俺は、フィオナが好きなんだな)

 例え、血筋が確かであろうと、愛せなければ意味はない。ジェマ嬢のような女性を迎えるくらいなら、妃は一生フィオナだけでいい。彼女ならば、国民たちからも認められるだろう。そうしたら正妃へと立場を改め、子を作り、ともに国を育てていく。
 今まで、考えたこともなかった将来へのビジョンが、オスニエルの脳内に鮮やかに生まれてきた。
 まだ首をかしげているフィオナをよそに、オスニエルは迷いもはれ、清々しい気分だった。

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