8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「ジェマ様!」

「フィオナ様―!」

 ポリーとジェマの侍女が慌ててやってきて、ふたりを引き離す。

「ジェマ様、現在のお立場をお考え下さい」

 侍女の方は、冷静に考える頭があるらしい。
 ふんと、そっぽを向いて歩いていくジェマの代わりに、ぺこぺこと頭を下げて去って行った。

「大丈夫でしたか? ドルフ様が慌てて駆け出していくからおいかけてきたら、フィオナ様がジェマ様とケンカしているんですもの、びっくりしました」

「よくわかったわね。ドルフ。凄いわ」

「ワン」

『当然だ』と頭の中に響いてきて、フィオナも頷く。フィオナはもう、ジェマのことは怖くなかった。
 常に自分の味方となってくれるドルフとポリーがいるのだ。怖いことなど何もない。

「いつかジェマ様に追放されるとしても、何か仕返ししてやるわ」

 そんな風に言えるくらい、フィオナの心は強くなっていたのだ。


 翌日、体調が落ち着いたオスニエルは、自分のしでかしたことを思い出しては枕に突っ伏していた。

「うあああああ」

「……何をしているんですか、オスニエル様」

 ロジャーもあきれ顔だ。なにせ朝からずっと、彼の主人は顔を赤らめたり青ざめたりと忙しいのだ。

「フィオナは何か言っていたか?」

「さあ。私がジェマ様に捕まっているところを助けてはくれましたがね。あ、ジェマ様から頂いたマドレーヌは、毒見の結果、興奮成分が認められたので破棄しました。悪気はないんでしょうけど、ジェマ様は少し考えが足りないようですね」

 道理で強硬に自分で持って行きたがったはずだと、ロジャーは納得する。

「罪に問うほどではありませんがどうします?」

「リプトン侯爵を敵に回すわけにもいくまい。けれど、彼女との結婚に関しては白紙に戻したい。できるか?」

「そうですね。この件に関して、科学的な検査をしておきましょうか。オスニエル様に害をなしたとすれば、彼女の立場は危なくなりますし」

「頼む」

 ため息をつき、髪をクシャリとかき混ぜる。
 気だるげな空気が、男のロジャーから見てもドギマギした。

「後はフィオナか……」

 ぼそりとつぶやくと、オスニエルは立ち上がった。

「着替える」

「はあ」

「フィオナと話をしてくる」

 今は夜だ。であればとロジャーは彼に汗を流していくようにと勧め、身支度を整えた状態で送り出した。
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