8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「ふぃ、フィオナ様! オスニエル様が御渡りです」

「は?」

 見舞いに行った翌晩のことだ。フィオナはもう寝るつもりですっかりくつろいでいた。
 夜着姿で、慌てているとずかずかとオスニエルが入ってくる。

「きゃあ」

「どんな格好でもいい。構うな」

「ですが!」

 きゃあきゃあ、わめくフィオナをじっと見据え、ポリーには外に出ているように告げる。
 行かないでポリーと思ったが、昨日、手から氷を出したところを見られたので、それを追及される可能性もあったので、おとなしく従った。

「その犬も、寝室に閉じ込めておけ」

「嫌です。ドルフは私の傍においてください」

 オスニエルは舌打ちをし、今度は懇願するような姿勢を見せた。

「……話があるんだ、フィオナ」

「ドルフに聞かれてまずいことなどないでしょう? オスニエル様とふたりきりになるのは怖いです」

 そう言われると、昨日無理やりキスをしたオスニエルとしては強くも出られない。

「分かった」

 了承し、ふたりはソファの対面に座る。

「き、昨日のこと、ですよね」

「ああ」

 フィオナは緊張で彼の顔を見られない。膝のあたりで丸くした拳で、夜着をギュッと握りしめる。

「あの、……すみません」

「謝らないからな」

 同時に正反対の言葉が出た。
 フィオナは思わず顔を上げた。そっぽを向きながらも頬を染めたオスニエルが目に飛び込んでくる。

「俺は謝らない。キスしたかったからした。それだけだ」

「そっち……ですか? 氷を出したことじゃなくて?」

 フィオナの反論に、オスニエルもきょとんとする。

「氷……そういえば、お前の手、つめたかったな。氷を出す? そんなことできるのか?」

 なんと。オスニエルは夜着をずぶ濡れにされたのに、氷が出たことには気づいていなかったらしい。

(じゃあ、余計なこと言っちゃったんじゃない!)

 フィオナが焦っていると、オスニエルは少し神妙な調子になった。

「そんなことができるのか、お前」

「……ブライト王国の王族は、多少なり聖獣の加護を得ているのです」

「聖獣に助けられて、お前はこの国に来たのだったな」

 輿入れ道中に襲われたことを言っているのだろう。フィオナが頷くと、オスニエルは居住まいを正し、ゆっくり頭を下げた。
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