8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 南からの日差しが差し込む室内で、フィオナはひとり掛けの椅子に座って、紐編みをしていた。少しだけ開けられた窓からは、気持ちのいい風が入ってきている。ドルフは二人掛けのソファを占領してお昼寝をしていた。

「できた!」

 高級な藍色の紐で作られた花模様の紐は、艶があり品もあった。

(素材を変えるだけでずいぶん高そうに見えるのね。凄い)

 フィオナはうれしくなって、眠っているドルフに声をかけた。

「ドルフ、おいで」

「キャン?」

 ドルフは、フィオナの呼びかけに片目を開けた。そして面倒くさそうに体を起こすと、いかにも不本意ですよと言いたげに、のそのそと近寄ってくる。

「ワン」

「起こしてごめんね。でもプレゼントよ」

 ドルフには、フィオナの飼い犬であることを示すため、革製の首輪がはめられている。フィオナはそこに重ねるように藍色の紐飾りを結び付けた。灰色の毛並みに藍色の花が映える。

「うん。似合う似合う」

「……キャン?」

 不思議そうに小首をかしげたドルフがかわいい。フィオナは手鏡を手に取り、ドルフに見せた。ドルフは鏡に映る自分を、興味深そうに見つめている。まるで人間みたいな仕草に、フィオナは笑ってしまう。

「素敵よ、ドルフ」

「キャン!」

 ドルフはようやく喜んで、フィオナの腕に体を擦り付けてきた。よっぽどうれしかったのだろうか。ドルフがこんなに感情をあらわにするのは珍しい。

(これまでは、婚約が決まった途端に、精神が不安定になりすぎて、ドルフのことは頭になかったもんなぁ)

 自分のことで頭がいっぱいだったのだ。できれば愛し愛される人と添い遂げたいと願い、愛されるために必死だった。
 でも今回は最初から愛を得ることは諦めている。だからか、妙に静かな気分で日々を過ごせていた。

「あのね。オズボーン王国に犬を連れて行っていいか、お伺いを立てたの。好きにしていいって返事が来たわ。ドルフ、これからもずっと一緒よ」

「キャン!」

 ドルフが元気よく返事をした。力強い味方ができた気分で、フィオナはドルフを抱きしめた。

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