8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「泣かされているのは俺の方ではないか。気持ちも返してもらえず、死にかけられて」

『それもそうか』

 聖獣に笑われ、不愉快に思いながらも、オスニエルはふっと口もとを緩めた。

「だが、いいだろう。泣かすつもりはない。命が助かったら、二度と命の危険にさらすような真似はさせない。俺が全力で守っていく」

『遠征にばかり出ていては守れんぞ。お前の国にはずいぶん腹の黒い令嬢がいるからな』

「戦争は終わりだ。フィオナとなら違う生き方もできる」

 会話をしているうちに、小さなあばら家へたどり着く。ここに、フィオナが寝かされていたのだ。
 中に入り、時を動かしてもらう。そしてもらった薬を飲ませた。

『体を温めてやれ』

「温まるのか?」

 氷のように冷たいフィオナを、ゆっくりと抱きしめる。すぐにオスニエルの肌にも鳥肌が立った。けれど、驚くほど急速に彼女の肌が熱を取り戻していくのがわかった。

『フィオナには氷の力を与えてある。その力が、毒の進行を遅らせていたのだ。解毒剤が体に回るよう、体温を戻す。フィオナの心がしっかりその体に戻るよう、引っ張ってやれ』

「引っ張る?」

『願うんだよ。仮死状態というのは、体と心のつながりがあいまいになっている状態なんだ。体から引っ張る力を強くするために、お前が望んでやるといい。目覚めて欲しいと』

「願う……か」

 フィオナと出会ってから、不確かなものに頼らねばならないことが増えたと思う。オスニエルは得手ではないが、それでもやれなければならない。
 彼女の体を強く抱きしめ、オスニエルは願った。

「どうか、生き返ってくれ」

 体にみるみるうちに熱が戻っていく。ドルフが上を見つめ、頷く。そのしぐさにどんな意味があるのか分からないが、やがて呼吸が安定していくフィオナを見て心底ほっとする。

 ぽたりとフィオナの頬に滴が落ちて、オスニエルは驚いた。自分が泣くなど、予想もしていなかった。
 不確かなものを信じるのは怖い。だからこそ、オスニエルは武力に頼ってきた。自分のものの目方で測れる分かりやすい尺度だから。
 だが、それではできない奇跡もある。

「フィオナ」

「……オスニエル様」

 彼女の目が開いた瞬間、オスニエルは感謝した。ドルフに、ホワイティに、よくわからないすべてのものに。

「もう……どこにも行かないでくれ」

「泣かないで……くださいませ」

 フィオナは、ゆっくり手を伸ばし、彼の背に回した。
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