8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 フィオナは自分の目に映る光景が信じられなかった。
 オスニエルが、自分のために泣いたのだ。それだけではない。薬をとりに、ドルフに乗ってブライト王国まで行ってくれた。
 エリオットは温厚で、断ることはないだろうが、あのオスニエルが人に頭を下げるところなど想像がつかない。
 これまでの人生で、オスニエルにそんなに大事にされたことなどなかった。

(信じてもいいんだ)

 フィオナはようやくそう思えた。警戒が解ければ、自分の中の気持ちもはっきりと浮かび上がってくる。

「ありがとうございます、オスニエル様」

「フィオナ」

 彼の涙を手で拭きとり、深い感謝を込めて見上げる。

「あなたのことが……大好きです」

 その時の、彼の顔をフィオナは一生忘れないだろう。驚きで丸くした目が、柔らかく細められ、潤んだ目尻に涙が溜まる。赤く染まった頬は、彼を普段よりもずっと幼く見せ、フィオナの胸をギュッと軋ませた。

「も、もう一度言ってくれ」

「オスニエル様のことが、大好きです。ありがとう」

「お、俺もだ!」

 オスニエルは彼女を抱きしめ、フィオナは苦しいくらいになる。だけど、今までの人生で一番幸せな瞬間だったことは間違いない。

『水を差して悪いがな』

 ぽそり、とつぶやいたのはドルフだ。

『トラヴィスはどこに行ったんだ?』

「え? 彼ならどこかへ飛び出して行ってしまったけれど」

『あいつの性格を考えれば、次にやる行動は復讐だ』

「……大変だわ!」

「ジェマ嬢が狙われるということか? まあ自業自得ではあるがな」

 フィオナが急かすも、オスニエルだけが乗り気ではなさそうに、眉根を寄せる。

「刑罰は個人的な感情で科されるものではありません。トラヴィスが私怨で復讐するのは間違っています。止めなければ」

「……そうだな」

 オスニエルはフィオナの肩を抱き、立ち上がる。

「城に戻ろう。お前には馬車を手配する」

「いいえ。もう大丈夫です。馬に一緒にのせてくださいませ」

「では、行こう」

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