8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 オスニエルは乗ってきた馬にフィオナと犬型に戻ったドルフを乗せ、城へ連れ帰った。
 そこでは、ひと騒ぎ起きていた。
 トラヴィスがふたりの兵士に押さえつけられ、ジェマ嬢がキーキー声で叫んでいる。

「不敬だわ! 即刻首を落とすべきよ!」

「一体何があった!」

 オスニエルの登場に、皆が一度動きを止める。
 やがてロジャーが状況を説明してくれた。
 ロジャーが、ジェマに対して聞き取りを行ったものの、決定的な証拠を得ることはできなかった。だが、このまま無罪放免というわけにもいかず、しばらくは城預かりということで一室を用意した。

 すると今度は裏門の方で騒ぎが起こった。
 飛び込んできたトラヴィスが近衛兵たちに捕まったものの、『フィオナに毒を盛ったのはジェマだ』と大声で叫び出したのだ。
 ジェマ嬢はいきり立ち、トラヴィスを牢へ連れていくよう言ったが、まずは取り調べが先だと言い合いになり、今である。

「俺が捕まるのは構わないが、その前にお前を蹴落とさねぇと気が済まねぇんだよ! お前のせいでフィオナが」

「私なら無事です。トラヴィス」

 トラヴィスの動きが止まる。ギギギと音がしそうなほどぎこちなく首をまわした後、トラヴィスは目を見開いた。

「……フィオナ」

「オスニエル様が助けてくれました。私はもう大丈夫です」

「良かった……」

 トラヴィスの目尻にジワリと涙が浮かぶ。張りつめていた糸が切れたように、トラヴィスから力が抜ける。彼を掴んでいふたりの兵士は、そのせいで少しバランスを崩した。
 オスニエルはそんな彼の前に立ち、剣を突きつける。

「お前にはフィオナを攫った罪がある。それを消すことはできん。しかし、この毒物事件の解明に協力する気があるなら、少しは罪を軽減することができるだろう」

「解明……?」

「証言が必要だ。フィオナが意識を失ったのは、毒物が原因だということは調べがついている。お前は、それを誰が用意したものか分かっているな」

「はい。ここにおられるジェマ・リプトン侯爵令嬢です」

 周囲が一気にざわついた。

< 148 / 158 >

この作品をシェア

pagetop