8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
 そして、再び孤児院視察の日がやってくる。

「本当に一緒に行かれるのですか?」

「行くと言ったら行く」

 馬車の前で、フィオナはやや辟易としている。オスニエルがいるからか、用意された馬車はいつものものよりも格段に大きい。これでは目立って仕方がない。

「殿下。可能ならばもっと小さな馬車で参りませんか? これでは、来られた方も委縮してしまいます」

「む、そうか」

「いつもの馬車に戻してちょうだい」

 フィオナにそう言われ、御者は困ったようにオスニエルを見る。命令系統として、オスニエルの方が上だ。

「いいだろう。分かった」

 彼の返答を聞き、御者はホッとしたように馬を付け替える。
 馬車の中は対面式になっており、進行方向を向いてオスニエルが乗り、対面にフィオナとポリーと、膝の上にドルフが乗っている。オスニエルの護衛としてロジャーが、フィオナの護衛としてカイが、馬でついてきている。
 狭い馬車に変更したので、膝がくっつきそうなほど近く、ポリーは恐縮しすぎて青くなっていた。

「その犬はいつでも連れて歩いているのか」

「ええ。大事なペットですもの」

「だが、孤児院に獣を連れ込むなど」

「ドルフはしつけの行き届いた犬です。孤児院の中ではいつもおとなしいし、小さな子供と遊んでもくれます」

「犬がか?」

 オスニエルは半信半疑だ。フィオナはため息をついて、彼を見つめる。

「……オスニエル様は私に興味がないんじゃなかったんですか」

「もちろんだ」

「ではなぜ、着いて来るなどとおっしゃるのですか? オスニエル様に迷惑をかけるようなことはしていないつもりです」

「そんなことはわかっている。俺が行っては駄目なのか?」

「そうじゃありませんけど。……子供たちだって委縮します。来るならちゃんと笑ってあげてくださいませ」

 オスニエルは自分の眉間を触る。

「俺は怒ってなどいない」

「いつも不機嫌そうな顔をしています」

「これが素だ」

「だからそれが怖がられる元凶だって言ってるんです!」

『まるで痴話げんかだな』

 飽きれたようなドルフのツッコミに、内容がわかるフィオナだけが顔を赤くする。「キャウ」としか聞こえないオスニエルは、急に顔を赤らめたフィオナを不思議に思いながら、とにかく、とまとめる。

「俺は、お前がやっていることを見たいだけだ」

 監視したいだけか、とフィオナはため息をつく。オスニエルが見ている前で魔法を使うわけにもいかず、ただただやりにくい。
 ポリーは、新婚夫婦のやり取りに、なんと言っていいかわからず黙っていた。
< 98 / 158 >

この作品をシェア

pagetop