8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「ようこそおいで下さいました。まさか王太子様にまで視察していただけるとは」
恐縮する孤児院長に、「オスニエル様は置きものだと思ってください」と言いオスニエルからにらまれる。
何を考えているのだろう、とフィオナは思う。
これまでの人生で、オスニエルがフィオナに干渉してきたのは、意地悪をするときだけだ。
だから今回も何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう。
孤児院での事業は、今やフィオナの楽しみにもなっている。最初は多く来る依頼をこなすための人員が欲しいだけだったが、思ったよりも子供たちの自立を促す結果になっている。なにより、自分の作ったものが売れると分かったときの子供たちの笑顔が、とても晴れ晴れとしていて、フィオナは目を奪われたのだ。
(どうしても軌道に乗せたいのに)
自分の手助けで、幸せになる人がいるなら、それはうれしいことだ。フィオナは今の自分に価値を感じ始めている。
「このように、皆で分業して行っているんです。孤児院のスケジュールの中のほんの二時間ですが、一日二十個は作成することができます。売って得たお金の半分は、彼らの生活費。もう半分は、やがてここを出る子供たちの支援金としています」
孤児院は十五歳までしかいられない。その後、めいめいに仕事を探すが、ろくな教育も受けさせてもらえない孤児がひとり立ちするのには、結局は安い賃金で働く下働きになるしかない。
「手に職がつけば、もっといい賃金のところで働くこともできます。最初数か月だけでも補助があれば、生活を整えることだってできる。そのための資金にしたいんです」
そうして独り立ちできた孤児は、孤児を支えることを惜しまないだろう。支える人が多ければ、一人あたりが支援する額は少なくても支え合えるはずだ。
「彼らは私を手伝ってくれた人たちです。だから私も、彼らを支えたいのです」
孤児たちは、フィオナにすっかり懐いている。
できたものを見せに来ては、彼女から言葉をもらい、うれしそうに輪の中に戻る。
まるで大きな家庭だ、とオスニエルは思った。
それは、城にはない、温かさだった。協力し合い、ともに暮らす。そしてその暮らしをくれたフィオナをみんなが愛している。
まるで、ここはフィオナの王国だ。