LOVEPAIN⑥
「あ、鈴木広子久しぶり。
大晦日なのに、ナツキさんの所行かないの?
これから?」


涼雅は靴を脱ぎ、部屋へと入って来る。


「ナツキは、今日は忙しいみたい」



涼雅には、今ナツキととても微妙になっている事は言えない。

またゆっくりと話す機会が有れば、
話すかもしれないけど。



「そっか。
にしても、若いのにこんな日に部屋で一人テレビ見てるなんて、寂しい奴だな」


そう言った涼雅からは、お酒の匂いがした。


それも、けっこう飲んでいるみたい。


「涼雅は楽しそうでいいね」


本心なのだけど、どことなく刺々しい声が出た。


「何?
鈴木広子、なんか機嫌悪くない?」


そう言って、笑っている涼雅の顔を見ていると、
なんでか怒りが沸き上がって来る。



「別に、私はいつも通りだし」


別に涼雅は何も私を怒らせるような事はしていない。


だけど、なんでか目の前の楽しそうな涼雅に腹が立ってしまう。


「俺、今からライブ」

「えっ?」


その突然の涼雅の言葉に首を傾げてしまう。


そして、ギターだけはいつも持ち歩いていた涼雅なのに、
今の涼雅はギターケースを持っていない。



涼雅は、また出掛けるんだ。

そして、また私はこの部屋に一人きりに。


「ライブっても、うちのバンドのメンバーと仲の良い奴らで集まって、カラオケ行くだけなんだけどな。
ちょっと、着替え取りに来たんだけど………あった」


涼雅は自分の私物を入れた大きなボストンバッグを漁り、
目当ての服を取り出していた。


夏に、涼雅はそのボストンバッグとギターを持って私の部屋へとやって来た。


それ程、この部屋で涼雅と過ごした訳ではないけど、
それなりにこの人を知って、どんな性格なのか分かっている。


だから、涼雅が何を言われたら嫌なのかも、分かる。

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