LOVEPAIN⑥
バシッ、と私の顔に当たり、
涼雅の持っていた服が床に落ちた。


「お前に弟の何が分かんだよっ」


涼雅は私の着ている服の襟首を掴み、
私を壁に押し付けた。


ドン、っと大きな音が響いた。


至近距離で涼雅と目が合うが、
その目を見ていたらこの人がどれだけ私に腹を立てているのか分かった。


けど、涼雅は女性である私に手を上げた事を後悔したのか、
何処かバツが悪そうに、その手を離して、私から顔を反らした。


今、涼雅が怒っているのは、
自身が非難された事よりも弟を侮辱されたと感じたからだろう。



私なんかの浅はかな価値観で、そうやって弟の涼雅に対する気持ちを推し量られた事に対する怒り。



「俺が鈴木広子と居て楽だと思ってたのは、
こんな俺よりもお前の方がどうしようもないバカだからだよ」


その涼雅の言葉に、ああそうか、と思った。


いつか私が涼雅のライブを見に行こうとして、
その時、涼雅が遠い存在だと気付かされ、あの時感じた劣等感。


涼雅も、私に同じような事を思っていたんだ。


どうしようもない者同志、同じような人間が近くに居ると安心する。
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