LOVEPAIN⑥
「篤さん、もしかして飲酒運転しました?」


言われてみると、篤からお酒の匂いがする。


「あ?
やっぱ匂いで分かるか?」


「え、はい…」


分かったのはお酒の匂いじゃなく、
篤の言葉だけど。


「ポカリ飲んだくらいじゃ、抜けねぇか。
わりぃけど、ちょっと仮眠するわ。
検問引っ掛かったら、洒落になんねぇ」


篤はそう言うと、エンジンを切った。


そして、そのまま後部座席に行く。


後ろはとても広く、
二列あるシートは既に倒されていて、
大人でも充分に寝転べるスペースがある。


篤はそこに寝転ぶと、あ、と声を出した。


「エンジン切ったから、寒くなるかもしんねぇな。
寒くなったら、勝手にエンジン付けろ」


「あ、はい」

私がそう返事すると、車内はとても静になった。


寒いわけではないが、エンジンやエアコンの音がある方が落ち着くかもしれない。


暗く静寂で、私の今のこの大きな心臓の音も篤に聞こえてしまうかもしれない。


「イス倒していいですか?」


倒した所で後ろで寝転ぶ篤に当たる訳ではないが、
一応、断りを入れる。


「構わねえけど。
つーか、お前も後ろで寝転べ。
数時間もただ座ってるのも辛いだろうし、
エコノミーなんとかってやつになったらあれだしよ」


篤が言っているのは、エコノミー症候群だろうか?


そんなにも何時間もここで仮眠するのだろうか?


「別に、てめぇになんかしようとか思ってねぇし」


そう言われて、車とは言え、
篤の隣で一緒に眠れるのか、とその幸運に喜んでしまう。


「そうですよね。
何時間も座っているより、寝転んだ方が楽ですよね」

私は言い訳のようにそう口にして、
篤の横に遠慮なく寝転んだ。


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