Re:START! ~君のバンドに、入ります~
 背中ごしに、律くんのすごみを利かせた声が聞こえてきて、ますます怖くなる私。

 だから全速力でレジに向かって、大慌てで私は利用券を出した。


「これでお会計を!」

「はい、毎度ありがとうございます」


 すでに顔なじみになっている店員さんは、あっさりとそれを受け取ってくれた。


「待ちやがれ! 詩乃!」


 そんな私を、恐ろしい形相で追いかけてくる律くん。

 ――しかし。


「お客さん、お会計をお願いします」


 レジの店員さんに律くんは呼び止められた。

 彼は「えっ!? えーと……」と戸惑った様子で立ち止まる。

 私と違って、律くんはきっとお金で料金を支払うはずだ。

 私みたいに手早く会計を済ますことはできないはず。

 チャンス、とばかりに私は急いでカラオケ店から出た。

 そしてそのまま、ダッシュで家に向かう。

 しばらく走ったところで、恐る恐る後ろを振り返ってみた。

 ふたりの姿はなくて、私は心の底からほっとしたのだった。



 カラオケ店から逃げ出して二時間が経った。

 さすがに律くんは家までは追いかけてこなかったようだ。

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