婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「もうひとつ。今回の戦ではお前に大事な仕事を任せたい」
「はっ。なんでしょうか」
「オディーリアだ。あれがナルエフでどうしているか探れ」

 側近はいぶかしげに眉をひそめた。

「オディーリア様はレナート将軍の元に……生かされているとは到底思えませぬが」

 敵国の王子の婚約者だ。たしかに厚遇される存在ではない。

「だが、あれだけの美貌の女はそうはいない。慰み者として生かされている可能性も十分にあるだろう」
 あのとき、あの男はオディーリアの容姿を気に入ったようだった。案外まだ生き延びているかもしれない。

「あれが生きているなら取り戻せ。かわいげのない嫌な女だが、俺の輝かしい戦績のためにはもう少し仕事をしてもらわなければ困る」

 毒を飲ませて聖女の力は奪ったが、解毒剤はある。取り戻せたなら、白い声を返してやってもいい。イリムはそう考えた。

「ですが、オディーリア様本人が拒否するのでは? あっ、いえ、余計なことを申しました」

 うっかり口を滑らせた側近は、慌ててイリムに詫びた。正論を言ってはイリムが機嫌を損ねると思ったのだろう。だが、彼の想像に反し、イリムは声をあげて愉快そうに笑う。
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