婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「ま、俺は時々味見をするかも知れんが、それは許せ。なにせ300デルも払ったんだからな」
「はぁ……」
「お前な。怒るとか、恥じらうとか、もう少し人間らしい反応をしろ」
「そう言われましても……」

 レナートはぷっとふきだすように笑った。こぼれる白い歯がオディーリアには眩しかった。
 自分の19年の人生が不幸だったかどうかはよくわからないか、彼のそれは違うのだろう。不幸な人間はきっとこんなふうには笑えない。

 「ほら、国境が見えてきた。あの川をこえれば、ナルエフだ」

 彼の視線を追ってみると、遠くにゆったりと流れる大河が確認できた。だが、国が変わったからといって景色が一変するわけでもない。初めて訪れるナルエフは、オディーリアの故国ロンバルとそう変わらないように見えた。
 明確に違うものがあるとすれば、それは……。

 「くしゅん」

 太陽は厚い雲にその姿を隠され、馬を駆るオディーリアの頬に当たる風は初秋とは思えぬほどひやりと冷たい。オディーリアは小さくくしゃみをした。
 すると、レナートは自身の馬を止め、少し遅れてついてきているオディーリアの馬の行く手も遮った。
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