婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
「笑えと言われて、笑うのは難しいてす」
「ははっ。そりゃそうだ。だが、いつでも笑えるよう訓練しといてくれ」
「どういうことですか?」
「じきにわかる」

 レナートは微笑む。だが、それ以上の説明はくれなかった。

 馬を走らせること丸三日間。ようやくビナ鉱山に到着した。レナートやマイトは息つく間もなく、すぐに前線へと向かう。
 
「どうか……ご無事で」

 かつて、同じ言葉をイリムにもかけたことがある。だが、イリムには悪いが、こめた思いが全然違う。彼に対しては、心から無事で戻ってきて欲しいと思う。

(この人を失うのは……嫌だ)

 誰かに対して、そんなふうに思うのは初めてのことだった。

「そんな心配そうな顔するな。ーー離れ難くなるだろう」

 言いながら、レナートは顔を近づけてくる。至近距離で、視線がぶつかる。

「なにか?」
「忘れものだ」

 レナートがオディーリアに口づける。唇を割って、柔らかな舌がオディーリアの口内を蹂躙する。いつもよりずっと情熱的なそのキスに、オディーリアは膝から崩れ落ちそうになる。が、力の抜けたその身体をレナートは放してはくれなかった。

「まだだ」

 短く言うと、彼は角度を変えて何度もキスを繰り返す。
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